「時効取得」について、民法は、占有(占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。「自主占有」(民180条)を始める時点で、その人が善意かつ無過失のときは10年間、悪意又は有過失のときは20年間、「所有の意思」を持って、「平穏に、かつ公然と」占有を継続すれば時効取得が完成するとしている。(民162条)
占有権は、代理人によっても取得することができる。「代理占有」(民181条)
民法では、「善意」とは無知であることを言い、この場合は、占有者自らの「所有とする意思」の占有が正当な権限(権利)に基づかないものであることを知らないことの無知をいう。「無過失」とは、不注意な点がなかったこと。この場合は、知らなかったことについて占有者に不注意な点がなかったことをいう。
民法186条1項では、占有者が善意であることは推定されるが(暫定真実)、無過失は推定されないので、占有者は占有の始めに過失がなかったことを立証しなければ10年の取得時効を主張できない。
占有者の善意・無過失は、占有を始める時点において問題とされるので、その後に悪意となっても時効期間に影響はない。
民法186条2項では、占有の継続は前後の両時点において占有をした証拠があるときは、その間占有が継続したものと推定される(事実推定)。
民法は、当事者が時効を援用しなければ、裁判所は時効によって裁判をしてはならないとしている。これを、「時効の援用」という。
当事者が時効を援用しなければ所有権に異動は生じない。
時効を援用するかどうかは、時効により利益を得る者の自由。時効完成前(時効期間経過前)に時効放棄はできないが、時効完成後(時効期間経過後)に時効を放棄することはできる。
<時効の効力>「時効の遡及効(民144条)」
時効の援用がされて権利の得喪が生ずると、その効力は起算日に遡る(時効の遡及効)。
占有を開始した時点が起算点となり、そのときから目的物を原始的に取得していたこととなる。でなければ、時効期間経過までの間、他人の土地を不法に占有していたことになり、地代金等の不当な利得を返還しなければならなくなる(民703条不当利得の返還義務)。
1 相手方が裁判上の「請求」により占有物の撤去や土地明渡請求をした場合。
2 差押え、仮差押え又は仮処分。
3 相手方が裁判上ではなく、事実上の請求(口頭又は文書での請求)でも、利益を受ける者がその事実を「承認」した場合。
以上により、時効期間は一切効力を失う。裁判の確定後又は承認後に改めてゼロから時効(再び10年又は20年)が進行する。
所有権以外の財産権(地上権「民265条」・永小作権「民270条」・地役権「民283条」・土地の賃借権「民601条」・土地の使用貸借権「民593条」)を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、所有権の取得時効(民162条)の区別に従い20年又は10年を経過した後、その権利を取得する。(民163条)
例1 土地の賃借権での場合、借地契約が成立した後にその契約が無効とされても、@他人の土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、Aその用益が貸借の意思に基づくものであることが客観的に表現されている、の二つすべての要件が具備されているときは、賃借権の取得時効がありうるとされている。(最高裁・昭和43.10.8、昭和45.12.15、昭和52.9.29など)
例2 土地の所有者から土地を買い受けてその所有権を取得したと称する者Aから土地を賃借した賃借人Bが、賃貸借契約に基づいて平穏公然に目的土地の占有を継続し、Aに対し賃料を支払っているなどの事情がある場合では、その土地の賃借人Bは、民法163条の時効期間の経過により、所有者に対して土地の賃借権を時効取得することができる。(最高裁・昭和62.6.5)
(1)「所有の意思」「善意」「平穏」「公然」は推定される。(民186条1項)
つまり、「所有の意思がないこと」や「悪意」を真実の権利者が証明しなければならない。(立証責任の転換)
(2)また、占有の始期と終期を証明すれば、その間占有が継続したものと推定される。(民186条2項)
(3)結局、民162条1項の時効取得を主張する者は、「占有を開始した時期」と「現在も占有している」事実だけを証明すれば足りる。
(4)民162条2項の時効取得を主張する者は、この「無過失」を証明すればよい。
「無過失」は推定されない(判例)
<無過失とされる例>
登記簿を見て登記名義人から買い受けた場合。
<過失があるとされる例>
1 登記簿を見なかったため、登記名義人が売主とは別人であることに気がつかなかった。
2 登記簿の名義人が売主と別人であることを知ってはいたが、よく確認しないまま買い受けた。