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第1編 総則  

第1章 通則
第2章 人(自然人)
第3章 法人
第4章 物 
第5章 法律行為
第6章 期間の計算
第7章 時効


第1章 通則

基本原則(信義誠実の原則)

1 私権は、公共の福祉に適合しなければならない(1条1項)。

2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない(1条2項)。

3 権利の濫用はこれを許さない。(1条3項)

解釈の基準

1 この法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として、解釈しなければならない(2条)。

第2章 人(自然人)「個人」または「市民」と言う

1 人は、出生によって権利能力を取得する(3条)。

2 胎児は生まれたものとみなして権利能力を認める。「亡山田太郎妻山田花子の胎児」

(1)損害賠償請求権 加害者に対して損害賠償を請求できる(721条)。

(2)相続権 被相続人から財産を相続することができる(886条)。ただし、胎児が死体で生まれたときは、これを適用しない。

(3)遺贈 被相続人は胎児に対しても遺言で自分の財産を贈ることができる(965条)。

第3章 法人

社団法人(人の集合体)

財団法人(財産の集合体)

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第4章 物 

定義 民法において「物」とは有体物をいう(85条)。

1不動産及び動産 

@土地及びその定着物は、不動産とする(86条1項)

A不動産以外のものは、すべて動産とする(86条2項)。

B無記名債権は、動産とみなす(86条3項)。(切符・チケット等)

2主物及び住物

主物=従物が付属させられているもの。

従物=あるもの(主物)の経済的効用を果たすために付属させられている物(87条1項)。従物は、主物の処分に従う(87条2項)。

3天然果実及び法定果実

天然果実=物そのものの産出物(88条1項)。

法定果実=物の使用対価(88条2項)。

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第5章 法律行為

第1節 総則

公序良俗(90条) 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は無効とする。

第2節 意思表示

■心理留保

 AがBに対してその気もないのに冗談で「私の所有する自動車をやろう」と言い(意思表示)、Bが承諾した場合、Aの贈与の意思が真意ならばこの契約は有効に成立する(549条)。民法は、冗談や嘘のように、「心理留保」(心の内に真意を留保していること)の場合でも意思表示は有効であるとしている(93条本文)。したがって、契約は成立し、AはBに対して自動車を贈与しなければならない。ただし、相手方BがAの言葉を冗談だと知っていた場合(悪意)や、また、客観的に冗談だとわかる場合、すなわちBがAの真意を知り、または知ることができた場合(有過失)は、Aの贈与の意思表示は無効で、契約は成立しない(93条但書)。

■意思の不存在

 心裡留保のほか、通謀虚偽表示、錯誤の3者を「意思の不存在」と言う。意思の不存在とは、意思が欠けていることで、この3書の場合はどれも「表示」に対応する「意思」が存在しない。つまり、心の内にある「意思」と、それを外に出す「表示」の不一致である。民法は、行為者が望んだとおりの内容が表現されることを原則としており、当事者間に法的関係が生じるのは、当事者の「意思」が根拠であり出発点であると考えている。したがって、意思が欠けている場合には、たとえ表示があっても何ら効力が発生しない。したがって、この心裡留保、通謀虚偽表示、錯誤の3者については、取引の無効事由となる。

■通謀虚偽表示

Aが所有する不動産につき税金対策や債権者に対する執行を逃れるため、知人Bに頼んでAの不動産につき売買があったかのように仮装してBに所有権登記をした場合、これは、税務署やAの債権者を欺くために、AとBとが虚偽の外観を作り出したものである。これを「通謀虚偽表示」と言い、このようなAとB双方の意思表示は無効であり、契約は成立しない(94条1項)。したがって、たとえ登記がBに移転していても、不動産の所有権はBに移転せず、税務署やAの債権者は、Aが所有者であるとして権利の主張ができる。

■善意の第三者

 AB間の通謀虚偽表示の後に、Bが自分に登記があることを利用して、Aに無断で不動産を第三者Cに売却した場合、AB間の通謀虚偽表示の無効を、善意の第三者(AB間の通謀、Bの虚偽の登記を知らない第三者)に対しては対抗できないとした(94条2項)。したがって、Cが善意ならば、Bから有効に不動産を買ったものとして、その所有権をCは取得できることになる。ただし、Cが悪意の場合(ABの共謀を知っていた場合)はCの所有権は無効となる。

■錯誤(95条本文) 「思い違い」や「勘違い」。

 民法は「要素の錯誤」は無効であるとしている。

 要素とは、その契約(法律行為)において重要な部分と言うこと。契約を締結するにあたって重要でない部分は錯誤の対象にはしない。

 たとえば、AがBから土地を購入する際に「1uあたり100万円」を「1坪あたり100万円」と勘違いして買った場合、売買代金は売買契約の中核をなす重要な部分であり、しかも金額が約3倍も違うので(1坪=約3.3u)、「要素の錯誤」 にあたる。 

■重過失(95条但書) 著しい不注意。

 民法では、錯誤をしたものに「重大な過失」があった場合には、錯誤による無効を主張できないとしている。

 重大な過失(重過失)とは、著しい不注意のことを言う。これに対して、一般的な注意を欠くことを「過失」と言い、民法は重過失とは区別している。「u」と「坪」を取り違えて契約を締結したような場合には一般的には買主Aに重過失が認められ、Aとしては錯誤による契約無効は主張できない。ただし、売主BのほうでAの錯誤について知っていたような場合にはAの錯誤無効の主張を認めるべきでしょう。

■詐欺・脅迫(96条) 

 AがBに物を売るときに、だまされたり(詐欺)、おだされたり(強迫)した場合の契約でも、その意思表示については「意思の不存在」はない。Aは、だまされたにしろ、おどされたにしろ、「売る」意思で「売る」旨の表示をしたのであり、意思と表示は一致している。したがって、表示に対する意思は存在する。

 問題なのは、意思が外部からの圧力よって形成されたことで、この点に「意思表示の瑕疵(欠陥)」がある事となる。

 民法は、瑕疵はあっても意思は存在したのだから、はじめから無効としないで、ただ、詐欺や強迫を受けて意思表示をした者は、その意思表示を取り消すことができるとした(96条1項)。

■詐欺・脅迫と第三者

BがAをだまして(詐欺で)不動産を買い、後にBがそれをCに売った場合について、民法は、詐欺を理由とする取り消しは、善意の第三者(詐欺行為があったことを知らない第三者C)には対抗できないとする。

ただし、強迫の場合には、Aは、強迫による取り消しを善意の第三者Cにも対抗でき、Cから不動産を取り戻すことができるとした(96条3項)。

第三者Cが善意の時は、詐欺により「だまされたA」より善意Cの保護を優先した。

強迫の場合は「おどされたA」を絶対的に保護すべきであるとしてAの保護を優先させることにした。

ただし、第三者Cが悪意であった場合は、詐欺、強迫の場合とも、Aは第三者に対抗できる。

第3節 代理

■任意代理  

代理権授与行為(授権行為) 本人Aが代理人Bに代理権を授与する行為。

代理行為  代理人Bが相手方Cと交渉して契約を締結(代理権を行使)すること。

顕命(けんめい)  代理人Bが相手方Cと取引をする際に「私BはAの代理人です」と言うように、必ず自分が本人の代理人であることを相手方に示さなければならないこと(本人のためにする意思表)。

これにより代理人Bがその権限内によって相手方Cとの間で締結された契約の効果がすべて本人Aに帰属することになる。結局は、本人Aと相手方Cとの間に権利と義務関係が発生することとなる(99条1項)。

代理人Bが本人Aのためにすることを示さないで行為をした場合(本人のためにすることを示さない意思表示)は、原則としてBが当事者となり、その責任を負わなければならない(100条前段)。

ただし、相手方Cが代理人Bが本人Aのためにすることを知り、または知ることができたときは99条1項の規定を準用する。

■表見代理 

正式な代理権の授与がないにもかかわらず、代理人には正式な代理権があったように見えることを言う。

    (表から見ると代理権があるように見えること)

 たとえば、Bには実際には売買契約をする代理権限がないにもかかわらず、Cが「Bには代理権がある」と信じるだけの「正当な理由」があれば、表見代理が成立しB・C間の行為の効果は本人Aに帰属する(110条)。

    「正当な理由」とは、Bに代理権がない事実について、Cが、これを知らず(善意)、かつ、その点につき不注意がなかった(無過失)と言うこと。

本人Aには酷な結果となるが、第三者Cの信頼のほうを保護した。本人は、第三者が信頼をするような何らかの原因を与えたのであり不利益を受けても仕方がないとした。

    民法は、次の3種類の表見代理を認めている。(ただし、相手方第三者が善意無過失の場合)

  1 権限外の行為(正式にはないが、代理権があるように見える場合)たとえば、賃貸借契約に限る代理権限授与行為であったが、代理人が相手方と売買契約を締結した。

  2 代理権授与表示(代理権限授与の表示があったが、実際には与えていなかった)

  3 代理権消滅(与えていた代理権が消滅)

■無権代理(本人が認めてもいないのに代理人を装い代理行為をする)自称代理人に全く代理権が存在していない場合を「無権代理」と言い、このような代理人を「無権代理人」という。

無権代理人には本人からの一切の代理権の授与がないので、取引行為の効果はすべて無効であり、相手方は本人に権利取得のすべてを主張することはできない。

相手方第三者が善意であったとしても本人の利益が尊重される。この場合、第三者は無権代理人に対して責任を追求するしかない(117条1項)。

追認権

 しかし、本人が、Bの行った無権代理を無効としないで有効なものとして、その行為の効果を本人に帰属させることを承諾した場合は、民法は、本人の事後承諾を「追認権」としてみとめた(113条1項)。

本人Aが追認すると、最初から代理権がBに与えられていたように扱われ、その効果が本人に帰属する(116条)。

相手方善意の第三者は、本人の追認のない間は、Bとの取引を取り消すことができる(115条)。

第4節 無効及び取消し

      無効な行為の追認(119条)

無効な行為は、その追認によっても、その効力を生じない。ただし、当事者がその行為の無効であることを知って追認したときは、新たな行為をしたものとみなす。

第5節 条件及び期限

      条件が成就した場合の効果(127条)

 停止条件付法律行為は、停止条件が成就した時からその効力を生じる(127条1項)。

 解除条件付法律行為は、解除条件が成就した時からその効力を生ずる(127条2項)。

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第6章 期間の計算

期間の起算

  時間によって期間を定めたときは、その期間は、即時から起算する(139条)。日、週、月、または年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。

ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りではない(140条)。

期間の満了

 前条の場合には、期間は、その末日の終了をもって満了する(141条)。

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第7章 時効

(1)取得時効

占有を始める時点で、その人が「善意」かつ「無過失」の時は10年間で、悪意または有過失の時は20年間「所有の意思」をもって「平穏に、かつ公然と」占有を継続すれば時効取得が完成する(162条)。

(イ)占有権限についての善意・悪意と過失の有無

「善意」とは無知であることを言い、占有者の「所有の意思」のある占有が、正当な権限に基づかないことを知らないこと。

「無過失」とは、不注意な点がないことを言い、知らなかったことについて占有者に不注意な点がなかったこと。

「善意」は推定されるが(186条1項:暫定真実)、「無過失」は推定されないので占有者は占有のはじめに過失がなかったことを立証しなければ10年の得時効は主張できない。占有者の善意・無過失は、占有を始める時点において問題とされるので、その後に悪意となっても時効期間に影響を及ぼさない。占有の継続は前後2つの時点で占有が行われたことが立証されれば、その間は占有が継続したものと推定される(186条2項:事実推定)。

(ロ)時効の存在根拠

@取引の安全を保護するため。

A年月の経過にともなう証拠関係の不明瞭性の回避。

B永続した事実関係の保護。

(ハ)時効の援用・放棄

時効によって権利の主張をすることを「時効の援用」という(145条)。

当事者が時効の援用をしなければ、裁判所は時効によって裁判をしてはならないとしています。

時効を援用するかどうかは、時効により利益を得る者の自由だが、時効完成後(時効期間経過後)に時効を放棄することもできる。

(ニ)時効の遡及効

時効が完成してこれが援用されて権利の得喪が生ずると、その効力は起算日にさかのぼる(144条:遡及効)。

(ホ)時効の中断

相手方の「請求」(裁判上の請求:占有者に対して撤去または返還を請求すること)や時効により利益を受けるものの「承認」(占有者が相手方の所有であることを認めること)(147条)。

(2)消滅時効

金銭を借りて返済日経過後も貸主から請求がこない場合や、売買代金の支払日経過後もそのまま放っておいた場合にはその債務が時効により消滅する。

@民事上の一般の債権は10年で消滅時効にかかる(167条1項)。

民事上でも短期の消滅時効があり、飲食代や宿泊代は1年(174条4号)。学校の授業料(173条3号)や弁護士の報酬(172条)は2年。医師の診察料は3年(170条)

A商事上の債権は5年。

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