■熱力学の第一法則
■断熱圧縮
■断熱膨張
■比熱と熱容量
■定積比熱と定圧比熱およびマイヤーの関係式
■水の特質
■気圧傾度力
■気圧傾度力と静力学平衡
■コリオリの力
■地衡風
■温度風
■熱力学の第一法則(エネルギーと仕事)
●物体が持つエネルギーと仕事の概念
物体が置かれた状態により、他の物体を動かすことができる「エネルギー」を持つことができます。このような、ある物体が他の物体を動かすことができるエネルギーを持った状態にあることを「物体がエネルギーを持っている」といいます。そして、この物体が持つエネルギーにより他の物体に力を加えてその力の方向へ運動させることを「仕事」といいます。このように、物体の持つエネルギーは、他の物体に対して仕事(W)をさせる力があります。
●位置エネルギーと仕事
高い位置にある物体Aが、その真下にある物体Bに落下して衝突すると、その衝撃により物体Bは動きます。これは、物体Aが落下に伴うエネルギーを持ち、そのエネルギーにより物体Bを動かしたという仕事をしたことになります。このように、高い所という位置に存在した物体Aが持つこととなったエネルギーを「位置エネルギー」といいます。
●運動エネルギーと仕事
運動している物体Aが物体Bに衝突すると、その衝撃により物体Bは動きます。これは、物体Aが運動に伴うエネルギーを持ち、そのエネルギーにより物体Bを動かしたという仕事をしたことになります。このように、運動している物体Aが持つこととなったエネルギーを「運動エネルギー」といいます。
●力学的エネルギー
上記の位置エネルギーと運動エネルギーを合わせたものを、「力学的エネルギー」といいます。
力学的エネルギー=位置エネルギー+運動エネルギー
●内部エネルギー
物体には、力学的エネルギーの他に、内部エネルギー(U)がそもそも存在します。内部エネルギーとは、物体の中の各分子どうしがお互いに引っ張りあう分子間引力による位置エネルギーと、分子や原子が持つ熱運動による運動エネルギーです。
ただし、空気については、各分子間の距離が大きいので、その分子どうしの引力がほとんど働かないため、分子間引力による位置エネルギーは無視できます。
※参考:分子などが激しく振動している状態=熱が大きい 分子などがあまり振動していない状態=熱が小さい
■熱力学の第一法則
あらかじめ内部エネルギー「U」を持つ気体「A」に、熱「Q」が与えられたとすると、それにより気体「A」が体積の膨張で外部に「W」だけ仕事をして、温度上昇により内部エネルギーが「U’」になったとすると、その関係は次のようになります。
U+Q=W+U’ これを変形すると、 Q=W+(U’-U) となり、ここで、(U’-U)は内部エネルギーの変化を表しており、儷の記号に置き換えることができます。
それによる式が、Q=W+儷 となり、熱力学の第一法則と呼ばれるものになります。。
この式は「気体に熱Qが加えられると、Wだけ仕事をして、内部エネルギーが儷増加する」ということを表しています。
つまり、気体に熱エネルギーQが加えられると、一部は膨張という仕事をするための外部への力学的エネルギーWとなり、残りは温度上昇により増加した温度が内部エネルギー儷として蓄えられるということになります。この内部エネルギーは、雲のできるメカニズムを考える上で重要な概念となります。
つまり、熱力学の第一法則とは、「熱」と「仕事」は同じものであり、「熱から仕事へ」、「仕事から熱へ」変換することができ、その間においてはエネルギーが保存されるということを定義したものです。
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■断熱圧縮
瓶に入った気体Aをピストンで押して内部の空気を圧縮します。この時、「気体Aはピストンにより仕事をされた」ことになります。ピストンからされた仕事Wの分だけ内部エネルギーが増加します。内部エネルギーが増加すると、熱を加えていないのに気体Aの温度が上昇します。これを断熱圧縮による断熱昇温と言います。
先ほどの熱力学の第一法則の式では、Q(気体Aへ加えられた熱量)=W(外部にした仕事)+儷(蓄えられた内部エネルギー)でしたが、この断熱圧縮では外部から加えられる「熱量Q」はないので、外部からされた「仕事W」のエネルギーの分だけ内部エネルギーが増加することになります。したがって断熱圧縮では次の式が成り立ちます。儷(内部エネルギー)=断熱圧縮前の内部エネルギー+W(外部からされた仕事)
■断熱膨張
瓶に気体Aが入った状態でピストンを引きます。この時ピストンは気体Aに押し上げられたようにも見えます。なので、これを「気体Aがピストンに仕事をした」といい、仕事をした分、内部エネルギーを消費して、気体Aの温度が下がります。これを、断熱膨張による断熱冷却といいます。
ここでは、次の式が成り立ちます。儷(内部エネルギー)=断熱膨張前の内部エネルギー−W(外部へした仕事)
■比熱と熱容量
●比熱とは、圧力または体積一定の条件下で、物質1g(対象物は一つの点)の温度を1K(ケルビン)(=1℃)上げるのに必要な熱量のことです。比熱容量ともいいます。物質が均質であれば物質の質量に比例するため、比熱は単位質量当たりと定められています。単位はJ/g・K(ジュ-ルパーグラムケルビン)で、比熱の記号はc(スモールc)です。
比熱の数値は、それぞれの物質によって異なります。例えば、比熱が小さい物質は少ない熱量で温度が変化するため、温まりやすく、冷めやすい性質を持っています。逆に、比熱が大きい物質は、温度を上げるために多くの熱量を必要とし、温まりにくく、冷めにくい性質を持っています。
主な物質1g当たりの比熱c(参考値) 単位はJ/g・K
物質 |
温度{0℃} |
比熱 |
水 |
0 |
4.217 |
水 |
20 |
4.182 |
氷 |
−1 |
2.100 |
海水 |
|
3.940 |
空気 |
−20 |
1.005 |
空気 |
0 |
1.005 |
空気 |
20 |
1.006 |
鉄 |
0 |
0.435 |
※「水」や「空気」のように、物質が同じでもその物質の状態や温度が変わると比熱も変わります。
●熱容量とは、圧力または体積一定の条件下で、物体(対象物は点(物質)の集合体)の温度を1K(=1℃)上げるのに必要な熱量のことです。比熱に物体の質量を掛けたもので、単位はJ/K(ジュ-ルパーケルビン)で、熱容量の記号はC(ラージC)です。
式にすると C=mc (C:熱容量J/K m:質量g c:比熱J/g・K)
■定積比熱と定圧比熱およびマイヤーの関係式
●定積比熱とは、体積(volume)一定の条件下で、単位量1s当たりの物質の温度を1K(=1℃)上げるのに必要な熱量のことです。定容比熱ともいいます。単位はJ/Kg・K(ジュ-ルパーキログラムケルビン)で、記号はCvです。
●定圧比熱とは、圧力(pressure)一定の条件下で、単位量1s当たりの物質の温度を1K(=1℃)上げるのに必要な熱量のことです。単位はJ/Kg・K(ジュ-ルパーキログラムケルビン)で、記号はCpです。
●マイヤーの関係式
定圧比熱Cp−定積比熱Cv=R(気体定数)
理想気体において、定圧比熱Cpと定積比熱Cvの差は気体定数Rに等しい。
■水の特質
1 固体の氷は、液体の水より体積が大きく軽い。
2 他の液体に比べて、融点と沸点が高い。
3 分子同士を結びつける力が強いので、表面張力が大きい。
4 比熱が大きいので、燃焼物等の高熱物に水を掛けると、水温が上昇して沸騰するまでにその燃焼物等から沢山の熱を奪う。。
5 蒸発熱(気化熱)が大きいので、水が気体(水蒸気)になるときに周囲から多くの熱を奪う。
6 熱伝導率が高い。
7 様々な物質を溶かす。
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■気圧傾度力
●等圧線の間にある空気塊に働く力
気圧の高い空気塊は、気圧の低い空気塊の方へ移動しようとします。この力を気圧傾度力といいます。気圧の差が大きいほど、その気圧傾度力は大きくなり、大気に移動を生じさせる力となって風を発生させます。
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■気圧傾度力と静力学平衡
●垂直方向に働く気圧傾度力と静力学平衡
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■コリオリの力

コリオリの力とは、地球の自転によって働く力です。転向力ともいいます。
地球の自転は、北極点上から見ると反時計回り、南極点上から見ると時計回りに回転しています。
したがって、北半球において、北上する物体は徐々に東側に進むように見え、南下する物体は徐々に西側に進むように見えます。この「見かけの力」をコリオリの力といいます。
コリオリの力は、向きを変える力はありますが、速さを変える力はありません。
次に、コリオリの力の大きさについて考えます。
コリオリの力は、赤道では0(ゼロ)ですが、高緯度ほど大きくなり、北極と南極では最大となります。
さらに、コリオリの力が大きくなる要素としては、高緯度のほか、質量が大きい、物体の速度が速い、ほど大きくなります。
コリオリの力の大きさを式にすると次のようになります。
<コリオリの力>
F=m×2ΩVsinΦ(2オメガ ヴイ サイン ファイ)@
F:コリオリの力
m:質量(kg)
Ω:地球の角速度(
)または(

)で(radはラジアン) 角速度とは1秒間の回転数を表した数値
V:物体の速度(

)
Φ:緯度
<コリオリパラメータ>
上記@の式のうち、質量mと物体の速度V以外の数値は緯度によって決まるものなので、質量mと物体の速度Vを「1」として次の式になります。これを、コリオリパラメータといいます。
f=2ΩsinΦ (コリオリ因子または惑星過度ともいいます)A
Ω:地球の角速度
Φ:コリオリが働く場所の緯度
※@の式のうち、質量と物体の速度以外の値は緯度によって決まるので、この式をコリオリパラメータとする。
<@の式にAの式を代入すると>
F=mVf B
この式を気象現象に当てはめた場合の各要素は
m:空気塊の質量
V:風速
Ω:自転の角速度の値(7.292×
)
f:コリオリパラメータ
となります。
<@とBの式の質量mを1kgとした単位質量を用いると、@とBの式はそれぞれ次のようになります>
F=2ΩVsinΦ @’
F=Vf B’
これが、単位質量1sの空気塊に働くコリオリの力の大きさになります。単位は
(Nはニュートン)です。
そこで、F=mVfとF=m×2ΩVsinΦの式から、コリオリの力Fと質量m・コリオリの力Fと物体の速度V・コリオリの力Fとコリオリパラメータf・コリオリの力FとsinΦ(コリオリパラメータによる2Ωの値(7.292×
)は一定なので。)は、それぞれ比例関係にあるため、次の関係が成り立ちます。
風速が一定の場合のコリオリの力は緯度で決まる。
緯度が一定の場合のコリオリの力は風速で決まる。
となります。
参考まで、緯度ごとのコリオリの力の大きさを計算してみます。
F=2ΩVsinΦ この式のΦに緯度の数値を当てはめます。
●緯度Φ=北緯0度(赤道上)
F=2ΩVsin0° sin0°=0
F=2ΩV×0
F=0(ゼロ)
赤道上ではコリオリの力は働かない。
●緯度Φ=北緯30度
F=2ΩVsin30° sin30°=0.5
F=2ΩV×1
F=ΩV
●緯度Φ=北緯90度(北極)
F=2ΩVsin90° sin90°=1
F=2ΩV×1
F=2ΩV
北極と南極ではコリオリの力は最大となる。
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■地衡風(ちこうふう)
地衡風とは、気圧傾度力にコリオリの力の影響を加味した力です。
静止している空気塊には気圧傾度力がはたらいて、高気圧側から低気圧側に向かって風となって動き始めます。
風の速度Vが加速されると、その風速に比例してコリオリの力も大きくなります(F=2ΩVsinΦ)。北半球で北上する風は、コリオリの力が大きくなるほどに、右側(東側)へと曲げられるようになります。最終的には、気圧傾度力とコリオリの力がバランスを保って、等圧線に沿って風が吹くようになります。これが地衡風です。地衡風になると、風速はそれ以上加速されることもなく、また風向も変わらない安定した風となります。
北半球で発生する地衡風は、低気圧を左側、高気圧を右側にして吹きます。
●地衡風の風速を求める
地衡風は、気圧傾度力とコリオリの力がバランス(気圧傾度力=コリオリの力)をとっているので、次の式により地衡風の風速を求めることができます。
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■温度風(おんどふう)
地衡風の鉛直方向の風向・風速の差を温度風といいます。
温度風は実際に吹いている風ではなく、2地点の風ベクトルの差をいいます。
地球の大気は、赤道付近では暖かく、北極付近では冷たい。
赤道側の暖かい空気塊は膨張するので、その等圧面は、高度の高い方に位置する。
逆に、北極側の冷たい空気塊は圧縮するので、その等圧面は、高度の低い方に位置する。
したがって、その暖気と寒気の間には気圧傾度力が生じて、地衡風が発生する。
気圧傾度力は上空ほど大きくなるため、地衡風も上空ほど大きくなり、地上に近いほど地衡風は小さくなる。
この時の風速の差(2地点の風ベクトルの差)を温度風という。
北半球での地衡風は、右側を暖かい空気(赤道側)、左側を冷たい空気(北極側)とする西風となっているため、温度風も暖かい空気を右側にして西風となっている。
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